この学校で学んで欲しいことは、建築についてしっかり基礎から学ぶということです。まちを歩いて、普通に目に入る住宅やビルがどういう風につくられているかということ、また、古くからある町家やお寺は、それらとどう違うのか、どうして魅力的なのか、見て、感じ、考え、学んで欲しい。
今日、地球規模となってしまった環境問題、民族・宗教問題、グローバル化した経済など、かつて人類が経験したことがない大きな課題が待ち構えています。私たち、まちや山里に住む人々の住まいを引き受ける建築技術者は、どう対処すればいいのでしょう?とても大きな問題ですが、これまでの私たち一人一人のしたいこと、こうあって欲しいと思ってやってきたことの積み重ねの上に現在があります。未来もまた、私たち一人一人がこうなって欲しいとアクションを起こすその先にあると考えてください。
ヒントは、伝統にあります。伝統のかたちやデザインなど伝統文化の所産ばかりを見るのではなく、それを生み出した伝統のシステム、素材や製品をつくっているさまざまの職人たち、その中で生活を営む人々全体社会の有機的な仕組みを学ぶことにあります。そこでは、かつての家づくりのどの場面においても、関わっている人たちの間に「共感」が息づいています。
学校では、建築を学問的に学ぶのではなく、まずやってみる、身をもって学ぶというところから入ります。山に行って、間伐し、皮をむき、製材して材木をこしらえるところに、きっと今まで経験したことのない魅力、価値観を感じることでしょう。白いケント紙に一本の線を引くところ、自分で設計した建物を模型にして眺めるところにも、新鮮な喜びがあります。町家に住むおばあちゃんのできないお掃除を手伝う、傷んだところを修繕してあげる。そんなちょっとしたアクションが、人と人をつないでくれます。実に、つくるということの楽しみ、喜びをそこで関わっている人たちと共に持てることが、そこに新たな価値を生み出す。そんなところに本来の建築の仕事があると信じます。
学校はたった2年間の学びですが、とても大事な2年間です。さまざまな多くの知識とともに、根底にある建築する喜びを知ってもらいたいと思っています。
「その学びは、人生を築く。」 平成28年4月1日 佐野 春仁