町家ゼミ 上京区にある平屋建てのお屋敷町家見学記  5月31日

20年ほど前に改修のご相談をいただいたNさんのお宅を町家ゼミにて見学させていただいた。その頃卒業したてだった吉田さんは今や伝統家屋の改修相談や設計施工の仕事をしながら、学校の町家ゼミを担当している。

高塀の格子門をくぐり、庭の塀に沿って玄関口に至る。正面は台所土間の入り口を見ながら左手の玄関戸を開けると、簡素な坪庭が目の前に。ここから左手が客間、右手が住まいの部屋になる。

玄関庭側の部屋と奥庭側の座敷、それに並行してもう一列幅1間ほどの廊下的な部屋があり、その右手に台所となる。平屋建てではあるが、町家から住まい専用に進化した屋敷型町家に近い。6畳の座敷にみんなで座ってご主人のお話を伺う。20年ほど前にこの家に引っ越し、その際にいくらか修繕の手を入れた。ほぼ何も手を加えず、庭の手入れをしているだけだと。

昔訪ねたときも、草一本見当たらない徹底した手入れに驚かされたが、今もなお、それは変わらないようだ。つくばいの石組みなどいくぶん積極的な手入れもあったようだが、全体として簡素なままに、しかし、手が尽くさfれた清潔感には感心するほかはない。

 

台所を拝見。土間は板の間に上げられているが、昔ながらの井戸やクドはそのままである。きれいさっぱりものが見当たらない。中ほどに細めの丸太が渡っていて、ただそれだけである。どこまでも簡素。

奥の座敷に。庭を見る狭めの縁側廊下が簡素にして美しい。奥座敷は90になるお母様が姿勢を正しておられた。おひさしぶりです。座敷の奥の納戸から2階に上がる階段が見える。登らせてもらった。

2階は小屋裏の物置空間であろうが、何一つものがない。きれいに拭かれて光る板床にみんなでしばし座って楽しむ。屋根にはひとつ明かり窓が穿たれていて、そこからの明かりが実にいい。照明を消してちょっとした暗がりの落ち着きを味わう。この屋根は光田棟梁に直してもらったのだった。光田棟梁に感謝。

 

最後に玄関の間を通り抜け、表の客間に。この内と外の境界がない間の仕掛け。前庭は外というよりも、空間としては、もう一つの内部の延長なのだ。このどこにもこれみよがしの強調のない、細くてでも確かな結構。これほど京の文化の質の高さを教えてくれるものはない。そしてそれを手間を惜しむことなくおのが手で日々維持されてこられたNさんご家族の姿勢にただ頭が下がるのみである。ありがとうございました。

(さの)