「はつる」セミナーby向井恭介さん@平成の京町家 9月24日

平成の京町家にて9月に予定の「はつる。」ハツリスト向井恭介さんによる作品展示とセミナーを行いました。はつる(なぐる)とは、古代から用いられている道具、釿(チョウナ)を落ちいて木材の表面を削ること。昔は主に丸太を加工する際に普通に用いられていましたが、電気ガンナが出てからは、滅多に使われることがなくなっています。最近、若い大工たちが積極的にチョウナを学ぶんでいること、フローリングメーカーの中にチョウナ加工品が出始めていることなどから、注目度が上がってきているのを感じています。

img_8843 午前中2階展示風景

img_8868 京都市住宅政策課 岡田課長から

セミナーでは、主催者である京都市の担当課長から、平成の京町家の説明がなされました。木の良さに触れることも、平成の京町家の目指すところです。

img_8874 京大農学部の高部先生

ちょうど会場におられた京大の高部先生に、木の話を。葉枯しを行うと、材木の辺材に含まれているでんぷんがいい具合に分解、カビや虫に抵抗する匂いのある成分が発生する。熱を加える人工乾燥では、それは消し飛んでしまうと。

img_8890 向井さんのお話

向井さんのチョウナの歴史やどうしてハツリストになったか、わかりやすく興味深い話にうなずきながら聴き入る会場の人たち。遠方から来られた方も少なくありません。京都の数寄屋で有名な中村外二棟梁が、老いて初めて建てた自邸玄関の式台にチョウナ掛けした杉を用いたことに驚いたと。杉は最も安い材であるにかかわらず、棟梁が選んだのは、そのあたたかさに依るのだろうと。その杉の良さを最もよく表現できているのが、チョウナはつりではないか。

img_8899 チョウナはつり実演

向井さんによるチョウナはつり。大きな音とともに、大きな花びらのような削り屑が。ハツられた杉の表面はつるつるに光っている。ドイツにもチョウナ(手斧)はあるけれども、刃は厚く硬く、堅いオーク材をはつるようにできていて、これほど切らすということはない。柔らかな針葉樹を削る日本ならではの切れる刃なのだ。

最近、機械でこういうはつり面を削る製品が出てきているが、栗や欅、ナラやタモなどの堅い木には向いているけれども、杉には難しい。人の手で、材の微妙な目の変化で生じる揺らぎこそが、良さをもたらしてくれる。

img_8916 新潟の刃物屋さん

会場の新潟長岡のチョウナを扱っている刃物屋さんに、古代のチョウナの復元品について説明をいただいた。刃自体が湾曲しており、袋ノミのような柄の付け口で、大きな力はかけられない。刃は小さめで、柄も短く、軽い道具で、古代の絵図に見るように、板を立てて、片手でも扱えただろう。今のものとは違って、平面を作ることのために作られたものだと。今はチョウナを作っている鍛冶屋は一人しかいないと。

会場からの意見で、若い人がもっと学びたいと思っても、なかなか教えてくれる人も機会もないので、今後も、学べる機会が増えることを望みたいと。

遅れて会場に来られた光田棟梁から、ぜひ学校に来て、若い学生たちに教えて欲しいなど、多くの要望が出ていました。向井さん、今後ともよろしくお願いいたします。ありがとうございました。(さの)

*展示は9月27日火曜日まで

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