2024年度の卒業制作の一つとして山口保広棟梁に指導してもらう奥出雲仁王門修復プロジェクトに建築科2年生から酒井君、相馬さん、西脇さんの3人が参加、さっそく4月19〜21日で奥出雲に向かい、仁王門の解体を行うことになった。
昼から奥出雲に出発。4時間ちょうどで奥出雲岩屋寺に到着。さっそく仁王門を見にいく。
この日の午前中にお祓いと屋根の解体が行われた。足場の向こうに、みすぼらしいぼろぼろのトタン屋根がなくなってすっきりとした仁王門が立っている。その姿に、あたかも最後の命の輝きが発せられているような感をおぼえた。まちがいなくある種の美を感じている。しかし、あらためて眺めれば、部材の傷みは12月の時よりも一層進んでおり、それは山口棟梁をして、遅すぎた、これは使えないなと。
その晩、斐乃上温泉の民宿でイエッケさんたちオランダ法人グループと一緒に夕食会。一同、久しぶりの再会に弾んでいたが、今日あらためて見た仁王門の状況について語った。さらに山口棟梁の「あの部材をなんとか修理して建て直すということは考え直した方がいい。あの建物にはそこまでするほどのものではない。ましてやタイルとなった仁王像と合うとは思えない。もっと似つかわしい新しいデザインの仁王門を考え直すべき」という発言で場の空気が一変。もう手遅れではないか。口にこそしないものの、皆が感じていたことだった。
イエッケは彫刻をする美術家である。その目は仁王門を美しいと捉えている。単にブルータイル仁王を収納する容れ物として見ているのではない。ただ、1mも積もる雪の荷重に耐えられる建築体とは見えていない。
まったく今までの門とは違うデザインの新しい材を用いてつくる仁王門、その方が彼女のブルータイル仁王には似合うかもしれない。ただ、イエッケの思いは、ブルー仁王そのものにあるのではない。タイルをオランダの市民たち、奥出雲の市民たちで手を取り合ってこしらえる、みんな一緒に、人々がつながることに意味がある。それは人口流出甚だしい奥出雲のひとたちにとってとても重要なことだ。地域に伝わる歴史や文化、風景や習慣との生きた関係を見直すことでそれは形成される。仁王像や仁王門はそのための恰好の素材となるだろう。
奥出雲の文化財マネージャーでもある建築家の宇田川さんも、あの仁王門は地域のひとの記憶のよすがである。様式の古い新しいよりも人々の記憶や思いに沿うものの価値が重要なのではないかと話す。ただ、当の仁王門が建築として十分な健康性を維持できそうにないということは認めねばならない。
かつての仁王門の部材を極力残して元通りの門を復元するか、それとも一部を象徴的に残して新たな素材で新たなデザインで門を建築するか、この議論には建築のもっとも根本的核心的な問題が含まれている。結論を急がず、このプロジェクトに関わる者たちでじっくりと考えてみたい。翌20日は解体が行われ、晩にみんなで話し合う交流イベントがもたれた。
(さの)