建築科1年設計製図担当の中田先生が若王子の横内敏人さんのアトリエ見学会を組んでくれた。昼夜の学生20数名、講師の先生方数名が参加。
アトリエは左京区の東山の麓、哲学の道の南端にある若王子神社を上ったほぼ山の中に横内さんが設計、25年ほど前に建てられた。訪れる者はみな車から降りて石段を登ることになる。
間口4間奥行5間(+1間の玄関下屋がつく)のアトリエは切妻屋根の空間を縦に半分に割って、西が吹き抜けのミーティングスペース+暖炉スペース、東が二層の製図室の1室空間となっている。民家のようだけれども、空間をわたる大きな小屋梁はなく、昇梁だけのすっきりとした架構で、妻梁すらない。大きな地震にはかなり揺れるだろう。
西面には大きなガラス面だけで、すでに横内建築ではよく知られた枠を見せない片引き戸やロールカーテンがここで考案された。周囲に大きな落葉樹が覆っているので、夏の西陽は木漏れ日程度になるという。
横内さんの家には必ずと言っていいほど暖炉がある。壁付きよりも独立型が多い。すべて設計されたもので、既製品ではない。ここにも小ぶりの可愛らしい暖炉があって、この山の石でこしらえたものだと。さっそく火をつけてくれた。手慣れたもので、すぐに薪に火が回り、嬉しそうな火がパチパチと歓声をあげる。
暖炉と周りのデザイナーチェアーたちが実に居心地の良い空間をつくりだしている。横内建築の真骨頂といっていい。ここでは小ぶりの暖炉の高さがポイントとなっていて、椅子も視線を低くして、外の庭とそう変わらない床面との連続感を味わえるようになっている。
外に出て建物を眺める。近年は煙が問題になるので、暖炉は街中では使えない。二次燃焼三次燃焼までしてくれる薪ストーブにとって代わった。横内さんの設計ではどうしているか、聞き損ねてしまった。
大きなミーティングテーブルの脇には外観模型がいくつも置かれている。どれも計画中のものだそうだ。1/100スケールで白模型はやらない。この時点で色を決めるという。まずは敷地調査をしてしっかり敷地をつかむ。平面計画は1/200で考えるが、その時にはすでに屋根の形と向きは決めていると。
外観模型もさることながら、もっとも学生たちを驚かすのは、スケッチブックに描かれている室内パースだ。横内さんは住まいの決めどころとなる室内パースを描きながら、いわば内部から住まいの空間意匠を構想し、決めていくと。うまく行ったと思われたプランでも、パースを描いてしっくりこなければ、平面をやり直すと。
パースの描き方を教えようと、透視図の描き方を丁寧に教える横内さん。普通は平面図を描いて視点から各点を結ぶ線が画面線と交わるところを下ろして来るところを、主なグリッドを簡単な比例で数値化して直接透視図を描いた方が楽だよと。
10時から始まった見学会が気がつけば、もう1時半を回っていた。もう終わりにしましょうと声をかけると、サインをくださいと、学生たちが買っていた横内さんの本を持って集まった。あらためてサインをねだる先生も。喜んでサインに応じる横内さん。惜しげもなく設計の勘所を教えてくれるところなど、若い人たちに建築を語り伝えることが好きなのだ。心から満足という表情の学生たち、素直にお礼の言葉をかけてこの場を出る。
あらためて表を振り返ると、表はずいぶん閉鎖的に(伝統的に)設られている。その分、中に踏み込んで目の前がぱーっと明るくひろがる空間に目を見張ることになると納得。やっぱり、こういう見学はいいね。教室でいくら素晴らしい写真を見ても、この実感には変えられない。横内先生、素晴らしい授業をありがとうございました。
(さの)