2019年度京都建築専門学校卒業設計展 感想メモ
講評会でも言ったが卆計は失敗することのほうが多い。その失敗は卒業したあと一生かけてやりなおすことになる。それもまた楽しいではないか。だから失敗したほうがよいとわたしは思っている。今年も失敗や成功の豊富な楽しい卆計展だった。ありがとう、そして卒業おめでとう。
< 全体として >
問題提起型の場合
ある種の社会改善をテーマとする場合、問題提起と解決策のあいだの乖離が目立つ。これは他大学の卆計展も含めて今年強く思ったことだ。中山村や古い町並み、シャッター商店街などを敷地としてそこへ介護施設や医療施設、児童福祉施設などを計画するものが卆計には多い。そうすることで何が変わるのか、そうすることで何を残せるのかをもう一度問い直してほしい。
敷地の力
なぜその敷地を選んだのか分からない作品も多い。なぜそこでないとならないのかを問い直すべきだろう。敷地の意味は地勢的なものから歴史的なものまでいろいろある。敷地のかたちや向きも敷地の重要な特性だ。そうしたもののひとつでも計画にとってなくてはならない条件であれば敷地の力が発揮される。敷地の力は強力だ。その力を十二分に引き出してほしい。
< 個別に >
[ 建築科 ]
1.「集落を共有する」松村哲太(池井ゼミ)【円満字賞】
日本海に面した限界集落に新規定住希望者のための待機施設をつくる計画。住民との交流のほか教育医療などの小施設を配置し地域再生の核とした。綿密な現場調査を重ね移住問題を洗い直した調査分析能を評価すべき。洗濯物をどこに干すかなど考現学的な独特の調査視点がおもしろい。
2.「旧花街を活用した週末住宅街、五条楽園」古田公宏(池井ゼミ)【円満字賞】
京都五条楽園の元遊郭建築を老人介護施設としてリペアする計画。複数の木造建物の各階を水平移動できるよう接続し十分な床面積を確保する手法がおもしろい。各部屋に残る床の間など数寄屋の見せ場をそのまま残すきめの細かい設計だ。
3.「新亀岡駅」小野美岬(池井ゼミ)
店舗付き集合住宅にまるく囲まれた駅舎。改札も待合もなく舞台のような8つのプラットフォームに車が直接アプローチできる構成が演劇的で魅力的だ。駅前に新築されたスタジアムのメインアプローチとなることをねらった。
4.「葬送列車」岸田優哉(池井ゼミ)
葬儀場の駅と火葬場の駅を葬送列車がつなぐ計画。将来的に廃線になることを見越して葬儀のための施設として存続をねらう。葬送列車というアイデアが秀逸だ。
5.「廃線上のまち」輿水玖美(池井ゼミ)【円満字賞】
愛宕山ケーブルカー廃線跡に小さな町を計画した。線路上に組まれた舞台づくりの傾斜路の上に住宅そのほかの都市機能をもりこむ。斜行型木造ユニテ・ダビタシオンともいえるイメージアビリティに富む作品だ。
6.「田辺朔朗博物館」田所ゼミ一同
三条通りから疎水船着き場までの登り斜面に博物館機能を併設した待合所を計画した。3段にセットバックした建物の中央に斜めの吹き抜けを設け施設を一体化する平面計画がよくできている。ガラスを多用し周辺環境に溶け込むことを企図したデザインも手堅くてよい。6人の共同作品は本学初。実施設計を体験できるよう面積表や建具図などを作図したプログラムがユニークだ。
[ 建築科二部 ]
7.「てくのやまようちえん」長田 南
京都市北白川の斜面敷地に芸術教育を旨とする幼稚園を計画した。大きな部屋は半地下として姿を隠し、円形住宅に似た保育室を集落のように配置するバナキュラーなスタイルがおもしろい。ビオトープや自然のなかでの遊び場など自然とのつながりを前提として芸術教育をとらえる視点に確かなものを感じる。
8.「つなぐ命~地域密着型救命救急センター」可徳卓哉
宇治田原の中山村地域にドクターヘリ用の救命救急センターを計画した。医療系独特の複数動線をシンプルにまとめた設計手腕を認めるべきだろう。
9.「(仮)四条山鉾ギャラリー」田中将真
四条通りを歩行者専用とし地下、地上、空中歩廊の3層構造のプロムナードとする計画。山鉾をモニュメンタルに配置し不思議な世界観を表現することに成功している。
10.「梅のCOMMUNITY CENTER」林 華奈子
鳥取市内の敷地に自分との対話の場を中心にすえた施設の計画。梅林を取り囲んだ木造回廊がよくできている。随所でふくらみ狭まりながら蛇行し、そのどこでも座れば梅と対話できる自分だけの場所となる。詩的で落ち着いた設計だ。
11.「風が吹いている」村上 奏
縄文土器をモチーフとした巨大な風の神殿を琵琶湖上の空中に浮かべた作品。超越的な存在を生命力の噴出するような火焔型土器に仮託した想像力が秀逸だ。紙粘土の模型に迫力がある。
12.「Kaerntner KYOTO」鈴木彩子
ウイーンの音楽通りを鴨川河畔に構想する作品。屋外ステージ、ライブハウスのほか練習場やそのほか支援施設を配置する細やかで楽し気な設計がよくできている。
13.「Sculptural Museum」田中美帆
嵐山の竹林の道に彫刻美術館を計画した。竹林を通り抜ける行為が鑑賞のための前奏となる。スロープで地下水面へ降りる屋外展示場がよくできている。平面立面ともバランスがよく設計力は高い。
14.「にじのもり幼稚園」北原 亮
山科の敷地に楕円形プランの幼稚園を計画した。中央の吹き抜けを共用部として使うシンプルなプランがおもしろい。
15.「川沿いの美術館」鈴木貴之
鴨川大橋西詰に展示施設とアトリエを計画した作品。利用者、アーチスト、管理の各部門を明確にゾーニングした使いやすそうな手堅い設計である。
16.「斜面集合住宅 ART VILLAGE」宮内真維子
京都修学院の斜面地を敷地とした芸術家住宅。6メートル正方形グリッドを用いた立体的雁行プランがよくできている。デザインは中国の古民家のものをよく写しており、かまぼこ天井やベンチ付き暖炉などわくわくするディテールに満ち溢れている。
以上