第33回市民講座 長津勝一さん+山口保広さん  12月10日

2年間コロナで出来なかった市民講座を学校にて人数を絞り、オンライン併用で行いました。

タイトルは「職人とは」。現代あるいはこれからの職人のあり方を問うシリーズの第1回目に、鋸の目立師として名高い長津勝一さんと宮大工の山口保広さんに登壇していただきました。

前半は長津さんの「鋸が切れるとは?」のお話です。会場にはお持ちいただいた様々な鋸が。

古くはドイツの13世紀のものから、近年のもの。山の木こりが用いた山鋸や製材の前引き、台切り、大工の尺一鋸、西洋の押し鋸などなど。楽しそうに解説する長津翁。

上が横引き鋸の歯。(長津さんは刃と言います。)左に引く向きで、その側に研がれているのが下刃(なげし)、逆側が背、刃先が上目と言う。通常、刃は外側に打たれて出ている(アサリという)。向こう側の刃とこちら側の刃とが材に切れ目を入れ(けがくという)、同時に上目のところに切り屑を引っ掛けて引き出す。

下は長勝鋸の代表と言われる窓鋸の歯。大きな丸い切れ込み(窓)の傍に縦引きの刃があり、次の4つが横引きに似た刃が並んでいる。この4つの刃が材をけがき、そのけがき線の間を縦引き刃が削り取って、切り屑を窓に溜めて手前に引き出すという具合になっている。微妙に縦引きの刃(鬼刃)の先が引っ込んでいるのがわかるだろうか?これらの刃は決められた寸法で研がれているのではなく、職人の勘によって研がれている。

お話の後半は実際に会場の若い大工さんたちに鋸で材を切ってもらう。替え刃の新しい鋸で材を切ってもらい、その鋸板を長津翁が金床と槌で叩いてバランスを取り直して、再度、切ってもらう。二人の若者が、あっと声を出すほど、切れ味が変わっている。鋸板の伸びバランスを取り直してやることで、鋸がブレることなく、かけた力が素直に切ることに集中するのだそうだ。もう名人芸というしかない。

前半のお話が終わって休憩中にも若者が試し切りをさせてもらう。「余分な力を入れず、鋸に任せなさい」長津翁の指導が入る。

後半はずっと長津さんのファンだという堂宮大工の山口さんのお話。

癖のある鋸をうまく加減、誘導して墨通りに切ることが鋸技術と思っていた。
それが長津さんの鋸ではそのまま抵抗なく墨通り切れてゆく。
長津さんの鋸との出会いで鋸にたいする意識ががらりと変わった。
すでに時代は替え刃鋸、電動工具全盛期に入っていた。
また製造技術を誇っていた時代から、大衆消費時代、
労働が美徳であるという時代は終わっていた。
高度な技術を持って立っていた大工は根底から揺さぶられることとなった。
そんな時代を大工として生きるために、
各地の鋸の名品を蒐め、長津さんに目立てしてもらい、
大事なコレクションとしていつも傍に置いている。
ときにそれを眺めて職人であることの自覚を確認している。

長津さんは戦後の復興の時代、高度経済成長の時代、
バブル崩壊後の時代を生き抜いて来られた。
ただ、ずっと同じこと、ひたすら自分で考えたことをやってみて、
人にどうかと尋ね、またそれをもとにやってみる、
それを繰り返してやって来たと。
周囲の変化にかかわらず、ブレずに自分の正しいと思うことを
追いかけ続けるというタフな探究心が、
職人の軸芯にあることなのだと。

お話が終わって、会場の皆さんが長津さんに感謝の言葉をかけていく。遠方からの棟梁も若者を連れて来ている。道具に、材を切るということに、生涯、これだけの精力を傾けてやり切る職人がいるということに何かを感じて欲しい。

素晴らしいお話をいただいた長津さん、山口さん、
講座にお集まりいただいた皆さん、オンラインで聴講された皆さん、
ありがとうございました。
(さの)