羽根建築工房による修学院の作品見学会   6月30日

6月30日 <鈍考・喫茶 芳(Fang)>見学会

5月16日に大阪森小路の羽根建築工房見学会の折にお話をいただいた京都修学院にこの
ほど竣工したというお店(設計:堀部安嗣建築設計事務所)をオーナーさんのご好意によ
り見学させていただいた。なにしろ普通の喫茶店ではない。私設図書館とあり、完全予約
制で、90分ずつ1日3回定員6名のみ、しかもずっと予約で埋まっている。この日は営
業を終えられた時間に見学させてもらった。羽根さんのご案内だが、堀部さんも来られる
という。参加学生は10名。



場所は修学院離宮の北側の山を越えて上高野になるのだが、山を開いた高級住宅地という
よりも別荘地とでもいうべき自然に囲われた斜面地である。80年代のいずれも塀や門で
ガードされた家々が並ぶ中に、表をひろく開けて緩やかな大谷石の石段で導く下屋のつい
た妻入りの建物は、住宅風でありながら、どこかのお寺の子院の佇まい。漆喰塗りの壁の
前に立つ4本のほっそりとした黒塗り柱の緊張感と重みのある板扉がそう感じさせるのだ
ろう。



内部に入ると、あたたかな木の色の空間の向こうに驚きの風景がひろがっている。山間の
谷を埋めている檜林なのだが、いい具合に距離があって、こちらに迫らない。内縁に大き
くいっぱいに広げられた窓のすぐ外にはやや段差を置いた土庇の外縁が設られていて、さ
らに段差が狭い庭を一文字に切る大谷石の見切り石があり、その向こうはしっかり斜面と
なって檜林に吸い込まれていく。じつに素晴らしい光景だ。
多くの人はこの光景と空間構成に身を置いてしばし言葉を発せずじっと見つめているとい
う。部屋の一面は図書が埋めているのだが、おそらく本を読みふける人などいないのでは
ないか。もっとも、いっぱいの図書の背表紙を見るのはとても楽しい。蔵書を眺めればそ
の人の思考のありようが透けて見える。



羽根さんと堀部さんのお話をうかがう。羽根さんたちが活動されている手刻み同好会の顧
問である堀部さんも手でつかむことの重要性について話された。若い人はまずは手描きの
図面から入らねばいけないと。大工も同じ。まさにここの仕事は最高の素材を手にして愛
玩するかのように手がけられた好例だ。このような仕事は、敷地、施主、設計者、施工者
が揃わなければ実現しない。さらに言えば、よき見手(客)を得てはじめて成就する。今
日、加工精度だけを取り上げるなら、優れた加工機でおおかた文句なしの仕事が可能だ
が、造作までしっかり通る仕事は機械には出来ない。熟練の大工の眼に図面上の精度は届
かない。風景を見ること、空間を見ること、素材を見ること、感性をも含めて見るという
ことが、設計者にも施工者にも等しく大事なことなのだと、お二人の話をそのように理解
させていただいた。
見ることは、見えるにつながり、ややもすると見せることにつながる。ここをよくよくわ
きまえよ、とは、世阿弥の能芸論であるが、堀部さん羽根さんのものつくりはそのレベル
に届くものと感銘を受けた。初心の学生たちにはどんな風に感じられただろうか。あらた
めてお二人とオーナー様に心から感謝の意を表したい。ありがとうございました。

(さの)